起業家・事業家の「リスクテイク」ということ


「リスクテイク」、学生団体に所属している時に先輩がよく言っていた言葉で、大切だとは思っていたけど
実際のこれを体感したのは起業した後。それまでは本当の「リスクテイク」が何かわかっていなかったと言える。

リスクテイクに関して、多くの著名人が言及している
孫正義氏「新しい挑戦をする時は、3割くらいの財産は捨てても良いという覚悟が必要だ。」
岡本太郎氏「危険だ、という道は必ず、自分の行きたい道なのだ」
ビル・ゲイツ氏「リスクを取らないことがリスクだ」

起業してから大小様々な起業家・事業家にも出会うようになったが、事業を大きくしている人は
リスクを冒して事業展開することこそが事業運営の要諦だと異口同音に言う。

星野リゾートの星野佳路氏はインタビューの中で「運営会社から見ると、所有しないことは、借金しなくてもよいということ」ということを運営方針の中で話されているけど、確かに「所有する」というのは一度に数十年単位で動かす大きなお金を一度で使うため「リスクテイク」だ。一方で元の所有と運営を両方やっていた星のやの実家の所有を売って、完全運営にのみ特化したことも、すでに所有していた「資産」を手放し、事業投資していったという意味では「リスクテイク」である。

見通しつかない中、自分の資産、もしくは他からの借入金、投資資金等で将来3年、5年、10年、または30年50年といった先のために前倒しで資金を使うこと。
想定通りに事業が成功しなければ、使った資金は戻ってこない。

これが、100億円現金ある人が1000万円の投資をすることなんか、投資とも言えないぐらいの痛みでしかない。
しかし大部分の起業家は自己資金でさえ1000万出せる人はほとんどいないのではないだろうか。
20代~30代のそこそこの稼ぎがある人なら貯金や資産等で、年齢にもよるが300万~1000万ぐらいはあるかもしれない。

例えば22歳から30歳までで頑張って500万溜めたとして、それを起業のために使うとする。
失敗すればその500万だけでなく、そのために溜めてきた8年間という時間を使うことになる。
そこまで溜めるのにまた8年近く時間をかけなければいけない。
あなたにはそれだけの覚悟を持てるのか?それだけの価値があると思えることをやろうとしているのか?
自分の人生で溜めてきた「資産」をその事業にbet出来るのか。差し出せるか。
自分の人生の一部を賭ける。これが本当の意味での「リスクテイク」なのだと思う。

自分がやり始めたことは川や海等の公共部分に関係することなので、本来的には行政範囲だが、ビックデータを集め、皆に使ってもらえるレベルにサービスを育てる、という方法は行政には今後も実現できないことのため(組織構造・体制的に無理)それを実現するために起業した。
当然一般的に収益性が高い分野とはいえず、それどころか収益化出来るかも不明な分野。そこをどうにか収支のまわる事業化するために、その事業化に自分の溜めてきたお金ほぼ全てとこれからの時間を「投資」した。さらに出資が非常に呼びにくい(特に初期は)ものであるため、融資を使って前倒しで少しずつでも実績を作ってきた。融資は将来的に利子をつけて返済しなければいけないため、使った分が投資したものとして収益として返ってこないと別の稼ぎで返していかなければならず、それもまたリスクテイクである。

その「リスクテイク」が自身への覚悟となり、その覚悟・気迫が伝わることで手を差し伸べてくれる人も出て事業が進むのだと思う。
事業にお金を投じてくれる人も、自身のお金の一部をポン、と渡すのだから何が何でも成功させてくれる人だと思えなければそうそうお金は出さないだろう。自分なら出さないし。

そうやって進んだその事業は、最初想定していた商品やサービスではないかもしれないけど、目的に近づくものであれば手段は倫理の範囲内であればなんでもいいはずである。

起業のリスクテイクとは上記のようなものだが、会社・組織が大きくなるとリスクに見舞われる人が多くなる。社員の命運もある程度かけることになる。だからリスクとると言っても会社がつぶれるリスクはとるべきではない。ただ失敗すると今までと同じ待遇・給与は無理かもしれない、ぐらいの内容なら、本当にやる価値のあることへのリスクテイクは後押しにもなる、のだろう(とビジョナリーカンパニーのBHAGとかの話を見て思う)

戻ると、事業家・起業家にとっては「リスクテイク」こそが事業創造のための前提条件であり、それに値する目的・事業でなければ人はとてもリスクテイクする気にはならないのではないか、とは思う。
ちなみに元テスラのマネジャー上田北斗氏が、過去にテスラのVPに「テスラのコアコンピテンシーは何ですか?」と聞いたら、彼は開口一番「リスクマネジメントだ」と答えた、という話があったが、これもリスクテイクに伴うダメージを可能な限り減らすための一つの要件と言える。